「広告を増やして新規患者を集めるべきか」「まず既存患者の継続受診を増やすべきか」は、多くのクリニックで悩みやすいテーマです。
結論として、すでに一定数の初診患者が来院しているクリニックは、リピート率向上に60%、新規患者獲得に40%を配分する考え方が基本になります。ただし、開院直後や新規患者枠が大きく余っている場合は、新規患者獲得を60%程度まで増やすことが合理的です。
重要なのは、「新規かリピートか」を固定的に選ぶことではありません。患者数が増えない原因が、初診数の不足なのか、初診後の離脱なのか、予約枠や受付対応などの受診しにくさなのかを見極め、予算を配分することが大切です。
基本方針は「リピート率向上60%:新規患者獲得40%」です
通常運営中のクリニックでは、まず既存患者が必要な時期に継続受診しやすい仕組みを整え、そのうえで新規患者獲得を強化する流れがおすすめです。
| 予算の使い道 | 目安 | 主な施策 |
|---|---|---|
| リピート率向上・離脱防止 | 60% | 次回予約、予約リマインド、Web予約、待ち時間対策、説明の改善、休眠患者への適切な案内 |
| 新規患者獲得 | 40% | 公式サイト改善、地域SEO、検索広告、Googleビジネスプロフィール整備、紹介元との連携 |
リピート率向上の施策には、派手な広告費を必ずしも必要としません。次回予約を会計時に案内する、予約変更をしやすくする、受診前にリマインドを送る、検査結果や治療計画を分かりやすく説明するなど、比較的少ない費用で改善できる項目があります。
外来の予約リマインドについては、受診率の向上や無断キャンセルの低下を示す研究があります。電子的な通知は、予約日時を伝えるだけでなく、変更・キャンセル方法も分かりやすく示すことが重要です。
新規患者獲得を優先してよい3つのケース
次のような状態であれば、一時的に新規患者獲得60%:リピート率向上40%へ配分を変える判断が考えられます。
1. 開院直後、または新任医師の診療枠が空いている
認知度が低く、初診枠が十分に埋まっていない時期は、新規患者の入口を増やす必要があります。公式サイトの診療内容、診療時間、アクセス、予約方法、費用の説明を整えたうえで、地域名と診療内容に沿った検索対策や広告を実施します。
2. 初診から再診への移行がすでに安定している
初診患者が、医学的に必要なタイミングで次回受診につながっているなら、新規患者数を増やす投資の効果が出やすくなります。初診後の継続率が低い状態で広告だけを増やすと、集客費用が流出しやすくなります。
3. 予約枠・スタッフ・設備に余力がある
新規患者を増やしても、予約が取りにくくなったり、診療や説明の質が下がったりするなら逆効果です。予約枠、受付体制、電話対応、診療後のフォローまで対応できる余力を確認してから予算を増やします。
リピート率向上を優先すべき3つのケース
次の状態なら、広告の増額よりも、継続受診しやすい体験づくりを優先したほうがよいでしょう。
1. 初診患者は来るが、必要な再診につながらない
初診数が確保できているにもかかわらず、再診予約率や一定期間内の再来率が低い場合は、患者が離れる理由を把握します。たとえば、次回受診の必要性が伝わっていない、予約が取りづらい、待ち時間が長い、費用への不安が残るといった点が考えられます。
2. 無断キャンセルや直前キャンセルが多い
空いた枠を埋められない状態は、広告を出して新規患者を増やしても収益性が上がりにくい状態です。予約リマインド、オンラインでの予約変更、キャンセル待ちの仕組み、連絡先情報の定期確認などを優先します。
3. 予約待ちが長く、新規患者を受け入れにくい
予約が先まで埋まっている場合は、新規集客を増やすより、予約枠の設計、診療導線、予約種別、キャンセル枠の再配分を見直すことが先です。患者が受診しやすい予約体制は、継続受診にもつながります。
予算配分を決めるために毎月見るべき4指標
感覚だけで判断せず、診療科目や患者層に合った数値を毎月確認します。絶対的な正解となる基準値はありません。自院の過去3〜6か月の推移と比較することが大切です。
- 新規患者数:初診患者数を流入経路別に集計します。検索、紹介、看板、Web広告、公式サイトなどを分けて把握します。
- 初診から次回予約への移行率:次回受診が医学的に必要な初診患者のうち、会計時または診察後に次回予約を取った割合です。
- 再来率:対象期間内に再診が必要な患者のうち、実際に受診した割合です。診療科ごとに適切な判定期間を設定します。
- 新規患者1人あたりの獲得費用:新規集客に使った費用を、その施策による新規患者数で割ります。広告費だけでなく、制作費や運用工数も可能な範囲で含めます。
さらに、施策ごとの判断では、売上だけでなく、追加で得られた粗利と費用を比べます。たとえば広告で初診が増えても、診療体制が逼迫して再診患者の予約が取りづらくなれば、全体最適とはいえません。

おすすめの予算配分パターン
| クリニックの状況 | 新規患者獲得 | リピート率向上 | 優先課題 |
|---|---|---|---|
| 開院〜認知拡大期 | 60% | 40% | 公式サイト、地域での認知、初診導線の整備 |
| 通常運営で初診数もある程度安定 | 40% | 60% | 次回予約、リマインド、説明、予約の利便性 |
| 初診は多いが再診が少ない | 20% | 80% | 離脱理由の把握、継続受診の導線改善 |
| 予約枠に余裕があり再診も安定 | 50〜60% | 40〜50% | 新規流入チャネルの拡大 |
この配分は広告費だけではなく、予約システム、患者向け案内、スタッフ教育、Webサイト改善、CRMやLINEなどの連絡ツールに使う費用も含めて考えます。
まずは90日間、配分を決めて検証します
予算は一度に大きく変えず、まずは90日程度のテスト期間を設けると判断しやすくなります。
- 直近3〜6か月の新規患者数、再来率、無断キャンセル率、予約待ち日数を集計します。
- 現状に合わせ、新規とリピートの予算配分を決めます。
- リピート施策は、次回予約案内、リマインド、予約変更導線の改善など、少数に絞って実施します。
- 新規施策は、流入元を判別できる状態にしてから実施します。
- 90日後に、新規患者1人あたりの獲得費用、再診への移行、無断キャンセル、予約枠の稼働状況を比較します。
成果が弱い施策は停止または改善し、成果が出ている施策へ予算を移します。この繰り返しにより、「集客費用はかかるが患者が定着しない」「再診対策はしているが新規の入口が細い」といった偏りを防げます。
医療広告では「集め方」の適正さも重要です
新規患者獲得の施策では、医療広告ガイドラインへの適合を必ず確認します。特に、費用だけを強調する表現、過度な値引き・キャンペーン表現、医療内容と直接関係のない特典による誘引などには注意が必要です。
リピート率向上も、受診回数を増やすこと自体を目的にするものではありません。患者にとって医学的に必要な受診、検査、治療が、分かりやすく、無理なく継続できるようにすることが本来の目的です。

まとめ
通常は「リピート率向上60%:新規患者獲得40%」から始めるのが、クリニックの予算を有効に使いやすい配分です。
- 開院直後や予約枠に余裕があるときは、新規患者獲得を60%程度まで増やします。
- 初診後の離脱、無断キャンセル、予約の取りにくさがあるときは、リピート率向上を優先します。
- 新規数、再来率、次回予約率、獲得費用を毎月確認し、90日単位で予算を調整します。
- 医療広告のルールを守り、患者にとって必要な継続受診を支える施策に投資します。
参考資料
- 厚生労働省「患者に継続した受診を続けてもらう上で必要なこと」
継続受診に関して、予約診療や家族・多職種との連携などを医療機関が重視している調査資料です。 - Behavioural economic interventions to reduce health care appointment non-attendance: a systematic review and meta-analysis
外来での無断キャンセル低減策について、リマインドを含む介入を整理した系統的レビューです。 - 厚生労働省「医療広告ガイドライン」
クリニックの広告・Webサイト・キャンペーン表現を検討する際の基本ルールです。

